概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

世界で今、核兵器の脅威が高まっている。核の威嚇を強めるロシア、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮、核戦力を増強する中国。日本は、周辺国から国民の安全を守りながら、被爆国として核軍縮を追求しなければならない。どのような道筋を描けるのか。佐藤正久・元外務副大臣、秋山信将・一橋大教授を迎えた1月9日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

高まる核脅威必要な抑止力

近くに見える存在に

「核兵器はこれまで、軍縮で削減される管理された兵器だった。しかし、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵略で威嚇に使っている。遠い存在だった兵器が、現実に近くに見える存在になっている」=佐藤氏

「米国では、北朝鮮に完全な非核化を求めることは不可能だと考える人が主流派になっている。トランプ政権も、米国にとって脅威にならないようにする交渉をした方が現実的だと考えるのではないか」=秋山氏

伊藤ゲストの佐藤さんが言われたように、冷戦が終わってしばらく忘れ去られていた核の危機が、急によみがえってきたように感じます。核の危機を考える時、それがどれだけ深刻なのかということを、どうやって測るのかという難しさがあります。核兵器は、通常兵器のように徐々に攻勢を強める段階を踏むことはできず、いつ使うのか使わないのかの二進法の世界です。そして、その判断は指導者一人に委ねられており、どこにレッドラインが引かれているのかは見えません。プーチン氏は威嚇を繰り返していますが、本当は何を考えているのかは分かりません。危機がどこまで高まっているのかということを、冷戦期以上に測りかねている状況を迎えています。

吉田米科学誌は1月、人類滅亡までの時間を示す「終末時計」の残り時間を「89秒」と発表しました。公表を始めた1947年以降で最も短く、世界で「核のタブーが弱まっている兆候がある」と警鐘を鳴らしました。世界には今、1万2100発あまりの核弾頭が存在します。9割を米露が保有していますが、核軍縮や核不拡散に向けた議論は停滞しています。

軍拡競争 世界が直面する核の脅威©️日本テレビ
軍拡競争 世界が直面する核の脅威©️日本テレビ

冷戦期、米ソは軍拡競争の末、地球が何回も滅びるほどの核を持つようになります。核で攻撃しても、核で反撃される。破滅と背中合わせの危うい均衡でした。時間はかかりましたが、共倒れになるより、互いに核を削減したり、査察したりするという機運が生まれます。「核は使えない」という規範は共有されるようになったと思います。しかしロシアは、核を放棄したウクライナを核で脅しました。侵略への協力の見返りに、北朝鮮に核・ミサイル技術を提供するのではないかとも言われています。ロシアが、核保有国を限定して核不拡散や核軍縮を進める核拡散防止条約(NPT)の体制を自ら崩そうとしていることを、国際社会はもっと深刻に考えるべきです。

伊藤北朝鮮はこの30年、核・ミサイル開発を諦めませんでした。米国は「北朝鮮の金体制は自壊するだろう」と楽観視していたように思います。北朝鮮に時間稼ぎを許したことが、現在の脅威の高まりにつながっています。トランプ氏は、北朝鮮を核保有国と位置づけて、弾頭や種類を制限する方向に転じるのではないかとの推測が出ています。NPT体制の立て直しが求められる今、米国がそれを否定する動きを見せていいのでしょうか。核の軍備管理が機能するためには、一定の信頼関係が必要です。管理を嫌がる北朝鮮との間で、そうした関係を結べるのかどうか。懸念が残ります。

2月の日米首脳会談で、トランプ氏も北朝鮮の完全な非核化を目指す方針を確認しました。北朝鮮を核保有国として認めれば、韓国も自らを守るために核を保有したいと考えるかもしれません。韓国は今でも核保有を求める世論がゼロではありません。北朝鮮の現状を追認すると、周辺国に緊張を強いることになり、東アジアの安全保障環境は揺らぐ恐れがあります。