蔦重が江戸市中に知られたきっかけ

翳(かげ)りが見えていた吉原だったが、蔦重の登場により、往年の勢いを取り戻し、やがて活気づいていった。

『吉原細見』(吉原のガイドブックのこと)の編集長を任された際は、序文を時の人・平賀源内に依頼して話題をさらった。

大物絵師の北尾重政を起用して、『一目千本』という、遊女を花になぞらえた遊女評判記をつくり、この本欲しさに客が吉原に来るように仕向けた。

蔦屋重三郎の名が江戸市中に知られるようになったのは、1776年刊行の『青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)』という、部屋ごとの花魁(おいらん)たちの日常を錦絵にした豪華本によってである。

絵師には北尾重政に加え、重政と双璧をなす勝川春章が担当、大物絵師の共作は大きな話題を呼んだ。

他にも、「俄(にわか)」や「玉菊灯籠(たまぎくどうろう)」といった、吉原名物のイベント本を作り、人寄せに成功している。

吉原関連本だけでなく、狂歌師たちを取り込み、狂歌絵本や黄表紙を刊行し、話題を呼んでいくのはこの後である。

これらの人材を確保し、ガイド、教科書、浄瑠璃本で確実に資金を蓄えつつ、時流に乗った目新しい企画を次々に打ち出し、ベストセラーを連発した。

 

※本稿は、『蔦屋重三郎の慧眼』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。


蔦屋重三郎の慧眼』(著:車浮代/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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