現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。横浜流星さんが演じる主人公は、編集者や出版人として江戸の出版業界を支えた“蔦重”こと蔦屋重三郎です。江戸のメディア王と呼ばれた重三郎は、どのようなセンスを持ち合わせていたのでしょうか?今回は、書籍『蔦屋重三郎の慧眼』をもとに、総合印刷会社でアートディレクターやデザイナーの経験を持つ時代小説家・車浮代さんに、重三郎の仕事術について解説していただきました。
浮世絵師四天王のうち3人のプロデュースに関わる
蔦屋重三郎(1750年〜1797年)は、日本が世界に誇る浮世絵師・喜多川歌麿、葛飾北斎らの才能を見出し、東洲斎写楽を謎の絵師として売り出した人物である。
江戸(東京)・日本橋にあった版元(出版社と書店が一つになったような業態)のトップであり、“江戸のメディア王”とも言われる。
蔦屋重三郎(以下、通称の蔦重で呼ぶ)がプロデュースした浮世絵はヨーロッパに渡り、やがてパリ画壇を揺るがせる印象派の誕生とともに、ジャポニスムブームをつくったことは、周知の事実だろう。
浮世絵師は、江戸時代だけで1200人ほどいたといわれる。
なかでも、浮世絵師四天王と呼ばれるのは、喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽、歌川広重の4人だ。
そのうちの3人のプロデュースに蔦重が関わっている。
彼のプロデュース力が、いかに抜きん出ているかがわかるだろう(ちなみに、あとの一人の歌川広重は、蔦重が亡くなった年に生まれているので関わりようがない)。
ただ、プロデューサーという影の立場だからか、蔦重の名はなかなか後世には知られていなかった。
かくいう私も、本格的に浮世絵について学びたいと考えた20代後半まで、蔦重の名前どころか、江戸時代に版元という業態があったことも知らなかった。