大人にとっては「勉強」でも…

こう言うとずいぶん英才教育をしてきたように受け止められるかもしれませんが、隼斗本人にとってはあくまで興味の延長線上にあることを突き詰めていただけ、私はその延長線上に従って隼斗が欲しがる知識や材料を与えていただけ、という方が正確かもしれません。

実際、出先で隼斗が計算ドリルを解いていると、よその方から「こんなに小さいのにいまから勉強させて、かわいそうじゃない?」と言われることもありました。でも、それは大人が「勉強」と「遊び」に境界線を引いているだけで、子どもにとってはそんな区別はないのです。

興味の向け方次第で、大人にとって「勉強」と思えることも、子どもにとっては楽しい「遊び」になる。このことは私に大きな気づきを与えてくれました。

この時期の隼斗の質問攻めに四六時中応じるのは正直なところ大変でしたが、彼の興味の対象を追いかけながら調べたり説明を考えたりするのは、自分も世界を広げてもらっているような面もあり、親子の楽しいコミュニケーションのひとつと捉えていました。

まさに「三つ子の魂百まで」の言葉通り、隼斗にとって数学の世界というのはその後もずっと彼の興味の対象であり続け、ピアノと共に彼の世界をかたち作る大きな要素となっています。

 

※本稿は、『「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)の一部を再編集したものです。


「好き」が「才能」を飛躍させる 子どもの伸ばし方』(著:角野美智子/ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)

「僕が音楽と数学の世界に導かれた背景に、母の多くの創意工夫があったことを再認識しました。」
――角野隼斗さん(ピアニスト)

角野隼斗さんの母にして、コンクール入賞者を延べ100名以上輩出したピアノ指導者である著者による、「原石を磨く」子育て論。