その直後のことだと思います。新宿区戸塚のロータリー近くにあった映画館で『きけ、わだつみの声』という映画を観たのです。映画のなかで、かつての旧制高校の先生と教え子が戦地で再会する。戦争に反対する二人は、そこで死ぬ。

私は映画館の2階にいたのですが、観終わって帰るとき、階段からもう少しで落ちるくらいのショックを受けました。

つまり、それまで私は戦争っていうものはみんなが喜んでやっているとばかり思っていたけれど、まったくそうではなかった。死にたくない、行きたくない、と思っていたのに戦争にとられ、死んでいった人たちがいたことをまざまざと突きつけられたわけです。

私の戦後の混迷は、長く続きました。しかし、少なくともそこから私は変わったと思います。自ら学び、考えるようになりました。知ることにもっと貪欲になりました。

そしていまは、なりたくもない軍人になった叔父が戦後、幼子たちを道連れにして自決しなければならなかった、それはどういうことなのかを書かなければならないと思っています。

これまでも私は一貫して、自分自身が心を動かされたことを題材に書いてきました。たとえば、私はかつて、ミッドウェー海戦の日米双方の戦死者3418名を突き止め、遺族を7年にわたって取材しましたが、米国人の軍人だって遺族だって、私たちと同じようにつらい思いをしたのです。それが戦争です。

私がこういう話をしても、多くの人は80年近く徴兵制のない時代を日本で過ごしている。ですから、直接の脅威としてお感じにならないのは当然のことだろうと思うのね。だから徴兵制がどれほどむごく、恐ろしいことなのかを私は伝えていかなければならないし、戦争に反対し続けなければならないと思っています。