「一人の人間」としての尊厳を奪わないように

たとえば、料理好きだったお母さんの手元が覚束(おぼつか)なくなってきたのを見ると、子どもはたいてい、「ご飯は私が作るから。火事になったら大変だから、ガスコンロを使った料理はやめてね」と、料理するのをやめさせてしまいます。

たしかに、それで火事を起こすリスクは軽減できますから、子どものほうは安心できるかもしれません。

しかし、お母さんはどうでしょう?かえって萎縮してしまうし、何より、唯一の楽しみだった料理を取り上げられて、それで幸せでしょうか。 

散歩が日課だったのに、迷子になると困るから外出させないというのも同じことです。家に閉じ込めてしまえば運動しなくなりますから、夜もなかなか眠れなくなってしまいます。

子どもが、親を外出させない、料理をさせない……親を「管理」することは、一人の人間としての尊厳を奪っているのではないかと、私は思うのです。

 

親の介護の「やってはいけない」』(著:川内潤/青春出版社)