SNSを含めたインターネット上で、いかに自分の主張が正しいかを言い争う現代。ノンフィクションライターの石戸諭氏は、「極論に流されて、冷静さと思慮深さを失ってはいけない」と“論破を喜ぶ思想”に警鐘を鳴らします。「社会現象」と呼ばれるほどの影響をもたらした人物について、本人・周辺への取材を重ねて綴られた著書『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』より、2024年の東京都知事選について一部抜粋してご紹介します
2024年の東京都知事選で起きたこと
意外なほどに演説はぱっとしない。
それが2024年東京都知事選に立候補し、「政治屋を一掃したい」とまったくの無印から約166万票を集め、3選を果たした小池百合子の次点につけた石丸伸二の印象だった。
広島県安芸高田市長しか行政経験がない石丸が票を伸ばしたことは、社会的にはかなり驚きをもって受け止められていたが、私はむしろ東京都知事選におけるクラシックなパターンの強さを再認識させられたという評価が適正ではないかと考えていた。
市長時代の石丸は「恥を知れ」という言葉を使い、市議会との対立構図を作ったことが最初に注目されたが、既成政党への不信感に訴えかける言葉自体に新しさは何もない。
むしろ、1967年の東京都知事選で左派を中心に擁立された美濃部亮吉も使った「政党色、組織色を消す」「特徴的イメージを作る」というクラシックなパターンを新しいメディアを使ってなぞっているにすぎない。
発信に使ったのがYouTube、あるいはSNSだということは新しいかもしれないが、支持される構造そのものはむしろ「ど」がつく定番のそれである。