そんな関係を数年間続けたが、もう無理かもしれないと感じたのは、A子が被害妄想のようなことを言い出した時だった。「夫の職場の同僚夫婦が隣に引っ越してきた。私を監視するためだと思う」と言う。

なんでも同僚夫婦とは子どもが同い年で、A子曰く、ライバル意識が強くてマウントをとってくるそうだ。だが、さすがに監視のために引っ越すなんて考えられない。私は怖くなり、時々居留守を使うようになった。

夫の海外赴任にA子がついて行くと決まったのはそんな時だ。これでもう連絡はなくなるだろうと安心したのも束の間、なんと赴任先のアメリカから電話がかかってきた。時差もおかまいなしで、早朝から呼び出し音が鳴り響き、私は夫から不審な眼差しを向けられるように。

そこでやんわりと、「海外からだと電話代が高くつくでしょう?」と切ろうとすると、「カウンセラーにかかるより安いから」と言うではないか。なんと私はカウンセリングの代わりだったのか! 彼女が漏らした本音に、私の心は固まった。

二度と彼女の話にはつき合わない。電話もメールも一切無視を決め込んでしばらくすると、ついにA子も諦めたのか、やがて連絡はこなくなった。

20代の頃、A子に一度、「あなたのことが羨ましい」と言われたことがある。どういう会話のなかでの発言だったか覚えていないが、彼女に認められたようでうれしかった。

しかし、今思えばその言葉のせいで、いい格好をしようと彼女の愚痴に耳を傾けてしまったのかもしれない。A子の「羨ましい」という言葉は、相手を気持ちよくさせ意のままに動かす魔法の褒め言葉だった……というのは、果たして考えすぎだろうか。

彼女が今どこで何をしているか私は知らないし、知りたいとも思わない。話していて前向きな気持ちになれる人とだけつき合いたいというのが、今の私の偽らざる心境である。