
「お金がなかったことで、親を恨んだことはありません。〈じゃあ、どうすれば自分のやりたいことができるのかな〉と頭を切り替えていきました」(写真提供『90年、無理をしない生き方』すばる舎/撮影:林ひろし)
85歳で孫と一緒に始めた、古い団地でのひとり暮らしを紹介するYouTubeチャンネル『Earthおばあちゃんねる』が人気となり、著書も累計18万部の大ヒット。それでも、毎日の暮らしは変わらないと話す多良美智子さん。90歳を迎え、体の衰えはあっても「無理をしない」生き方で、日々機嫌よく暮らしています。そんな美智子さんの90年の人生を振り返った著書『90年、無理をしない生き方』から、いくつになっても機嫌よく過ごす秘訣を紹介します。
節約してお金をためるのは
「使いたいとき迷わず使う」ため
実家の商売は、しっかり者の母が生きていた頃はうまくいっていましたが、戦後に母が亡くなってからはどんどん悪くなりました。高校生の頃は「うちはお金がないんだな」と感じていました。
忘れられない出来事があります。夏休みに、仲のよかった先生が、私たち仲良しグループとの日帰り小旅行を計画してくれたのです。
私は「うわあ、いいな。だけど、うちにそんなお金あるのかな?」と考えてしまって。もちろん、そんなに高いお金ではなかったので、父に頼めば出してくれたはずです。でも、苦しい事情をわかっていたから、父には言い出せませんでした。
友達にも本当のことは言えないから、他の理由で断りました。今でも、「あのときは寂しかったな」と忘れられないのです。
やはり高校生のときに、服を作るための生地がほしかったから、繁華街の紳士服売り場で友達とアルバイトをしたことがありました。
1ヵ月働いてもらったお金を持って、「どんな生地を買おうかな?」とウキウキしながら家に帰ったら、子どもを連れて帰省していた1番上の姉が、「そろそろ家に帰らないといけないけど、電車賃がないの。美智子、悪いけれどお金を貸して」と……。私の給料日だとわかっていて、頼んできたのでしょう。
1ヵ月のアルバイト代は3000円ほどでした。ブラウスとスカートを作るくらいの布は買えるかなと思っていたけれど、一瞬で夢が消えました。給料袋のままそっくり姉に渡しました。姉も生活に困っており、貸したお金が返ってくることはありませんでした。
きっと姉も、父には言えなかったのでしょう。姉の気持ちがわかるから、断ることはできませんでした。