ごはんを手づかみ
向かい側では樋口フジ子さんがごはんを手づかみにする。
「こらっ、誰がそんなこと、していいって言ったの」
突然、施設長の口調が厳しくなる。
樋口さんはうつむいたまま悲しい顔になる。
まるぽちゃの認知症の福田サヨさんはにこにこして元社長の森山栄二さんを見ている。真向かいの森山栄二さんは箸の手を休めて、「うん、かわいいよ」と言っている。
竹下さんのたてるスプーンと食器の音がけたたましくなる。
テーブルのうえにごはんや煮魚が散らばる。彼女の胸元や膝のうえに、そして床に散らばる。スタッフは余分な仕事を増やしてくれると思いながらも見守るしかない。衣服にこびりついたごはん粒を取るのはひと手間である。あとになってエプロンを使うようになったが、それでも彼女の周りは汚らしくなった。