「老いは財産や」と語る綾戸智恵さん。母親を介護した日々では、精神的に追いつめられたこともあったと言います。老いていく母に学んだ、綾戸さんの生きるうえでの指針とは(構成:丸山あかね 撮影:洞澤佐智子)
生きることにはリスクがつきもの
台所で朝食の支度をしてたら、母がウーッと唸りながらテーブルにつっ伏したんです。慌てて救急車を呼んで病院へ搬送。検査の結果、右半身に麻痺が残ると知らされました。
その時点で要介護4(現在の3)だったんですけど、母は厳しいリハビリに耐え、なんと要支援2まで回復。自力で歩けるし、日常生活を普通に送れるようになりました。
ところが最後のリハビリに行こうという日に、玄関先で宅配業者の人と衝突し転倒、大腿骨を骨折してしまって。
娘としては恨み言の一つや二つ言いたくなりますが、幼い頃から母に言い聞かされていた、「人は生まれたら、もれなく死ぬことがついて来る。その間にはいろいろなことが降って来るけど、それが人生というもんや。つらいことも受け止めるしかない」という言葉を思い出し、これは生きることにもれなくついて来るリスクなんやからしゃーないと、割り切るようにしました。
母はこの出来事で要介護2へ。しかも入院中に認知症を発症します。息子がイギリス留学中だったこともあって、さすがに限界やと私は仕事を休止し、入浴法や床ずれ防止対策の指導を受けて自宅介護に。
入浴や摘便など頑張りました。他人のだったら嫌やけど、自分はこの肛門のすぐ近くから生まれて来たんやと思ったら何でもなかった。