年を取らないとわからないことはある

その後も燃え尽き症候群にはなっていません。髪の毛が面倒だったので介護中は坊主にしてたけど、白髪を活かしたカッコいいヘアスタイルにするのが夢だったから、今はヘアケアにこだわったり、コンサートでファンの方から「この曲がよかった」と言われれば、褒められた部分を伸ばせるように練習したり。自分磨きの時間が増えました。

生きることも死ぬことも、人はどうすることもできません。でも決して悲しいことではないと思うんです。老いることも同じ。

母が亡くなってから、母の大島紬を着て鏡の前に立ってみたんです。子どもの頃にこっそり着た時は似合わなかったのに、よう似合うようになってて、私も年取ったんやなと嬉しかった。老いは財産やと思います。

歌にしても、若い頃と比べたら声が出づらくなってるけど、それなりの味わいがあるんです。コンサートでラブソングを歌っていても、年を取らないとわからないことはあるもんやなと感じます。歌に限らず、この年ならではの魅力というのがあるんですよ。

私が老いることを悪くないと考えられるのは、やはり母の姿を間近で見てきたおかげだと思います。長く生きることは、経験が増え徳を積むことなんやと感じました。

67歳の私がコンサートで演奏することで、同年代の人は一緒に頑張ろうって思ってくれるだろうし、若い人には年を取るのも悪くないと感じてもらえたら、ええですよね。

息子がいるとはいえ、いつ何が起こるかわかりません。自分に介護が必要になったら……なんて考えてもわからない。わからないのがいいんやと思います。

「なるようになる、それでいい」と思えるような生き方を心がける。これに尽きるんじゃないでしょうか。


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