『ピンポン』が公開される前に、平成中村座で1日だけ若手たちに主役をやらせる試演会の『義経千本桜』狐忠信があったはず。
――そうそう。公開前だった。僕は頭が坊主で痩せ細ってたから、「お前ガンジーか」って勘三郎兄さんが(笑)。でも狐忠信に抜擢してくださって、それで稽古に入ったらやることも覚えられないし型は悪いし、「ダメだねぇ」って。
お兄さんは芝居中の共演者と結構ご飯に行くんだけど、「さぁみんな行こう。あなたのことは誘わない。出来が悪いから」。でももうがむしゃらにしがみついて稽古して、「まぁ、いいよ」ってなった。
それで当日。獅童が初めて主役をやるというんで、来てくれたお客様がいっぱい。めちゃめちゃ緊張して揚幕の中にいて、チャリーンと開いて花道に出て行ったら、もう聞いたこともないような割れんばかりの拍手で。それですっかりその気になっちゃって、子狐が両親の皮で作った鼓を慕うひたむきな気持ちと、その時の僕の気持ちがシンクロして、もうお客さんも涙、涙で。
その時の映像が残ってるんだけど、カーテンコールに勘三郎お兄さんが出てきて、「まぁ獅童は本当によくやったと思います」って泣いてくれた。
あとで、「ただ1回きりで、破れかぶれでやったと思うけど、プロの役者はそれを25日間やらないといけない。今の気持ちを忘れないようにね。型を気にして気持ちが消えちゃうんだったら、よくないよ。型なんか、やっているうちに身につくから。あなたの一番いいところは、心を込めて芝居が出来るってことだから、それを忘れないで」って言われました。