「今思えば、人には必ず終わりがくるんだと。僕の中の死生観が変わったと感じざるをえない出来事でしたね」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続けるスターたち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第14回は俳優の渡辺謙さん。急性骨髄性白血病を発症し、入退院を繰り返した30代は、大きな転機だったと語る渡辺さん。しかし、その後の『ラスト サムライ』の出演が、そんな30代を吹き払うぐらいのステップアップを与えてくれたと話します――。(撮影:岡本隆史)

<前編よりつづく

入退院を繰り返した30代を経て

第2の転機となるのは、順風満帆の俳優人生さなかの89年。映画『天と地と』の撮影中に急性骨髄性白血病を発症したことだとか。

――いやあ、僕としてはすごい速度で大きな階段を上らせていただいてたんですが、いきなりそこからドスンと落ちてしまった。ストップがかかったというか。

そのころよく「人生観変わりましたか」って訊かれると、「いや、そんなことないです」って突っ張ってましたけど、今思えば、人には必ず終わりがくるんだと。僕の中の死生観が変わったと感じざるをえない出来事でしたね。

直前に夏目雅子さんのことがあったので、周りの人も諦めていたようでした。その後、約1年で俳優復帰してからも、何回も入退院を繰り返したので、僕の30代は、自分が思い描いているものと、自分のやれることのギャップみたいなものをいつも感じながら過ごした10年間でしたね。

そこから抜け出す第3の転機となるのが、映画『ラスト サムライ』への出演だったと思います。これがモヤモヤしていた僕の30代を吹き払って、もう3つくらいステップアップさせてくれましたからね。