その僕に最初に声を掛けてくれたのが勘三郎のお兄さん、当時は勘九郎ですけど。十二代目團十郎さんの『若き日の信長』で、僕は軍兵の役。鎧櫃を、ほんとは軽いんだけど重そうに運んでたら、秀吉役の勘三郎さんにぐっと肩つかまれて、「いいよあなた、その気持ち忘れちゃダメだよ」って。
僕は、ここで手を抜いてたら一生そこから上っていけないと思ってたんで、それを褒められたんでめちゃくちゃ嬉しかった。それから勘三郎お兄さんとご一緒させていただくことが増えたんです。
大阪で芝居の時、お兄さんが行きつけのバーがあって、朝までお酒飲んで芝居の話に花を咲かせるんだけど、一番後輩の僕も連れてってくださって。ものすごくいい話してるから末席の僕は聞き耳立てて全部聞いてて、それが今の自分にものすごく生かされてると思うんだけどね。
明け方近くなった時、「幹弘っ」って本名で呼んで「大人しいんだね君は」って。「あ、でもね、この人いまに天下取るからね」って。そしたらそこにいた諸先輩方が冗談と思ってみんなで笑ったの。「今笑った人、全員追い抜かれるからね、ハイ、今日は帰ろう」って。それが締めの言葉みたいになっちゃって。
それでずっとあとに新橋演舞場で『丹下左膳』(04年)で初座頭公演やった時は、「俺、当たりくじ引いたね」ってすっごく喜んでくれて、楽日近くの日替わりゲストに、柄本明さんと鶴瓶さんと三人で来てくれましたからね。