相当やっかい

そもそも、母は病気を治したいと思っているのか?

本人にその気がないのに、快癒を祈るのは無駄なのでは?

母のがんは相当やっかいなものだった。

ようこ姉いわく、なかなか見たことがないほどの悪性度の高さ。

「治療方針としては転移があるから化学療法をし、そこで効いていたら手術に持ち込むというもの。抗がん剤というのは誤解を恐れずに言うたら「毒」を投入するようなものやから、悪性度の高いお母さんのがんにはめちゃくちゃ効きやすいわけよ。それやのに!

一度受けてみたらしんどかったんか、『抗がん剤なんてやったら病気になるわ!』と自己判断で治療をやめてしまってさ。それを聞いて絶句したけど……まあ、あの人らしいわ」

あの人らしい。

たしかに、そうだった。

化学療法をやめた母は、いかにも母らしく、代替療法にハマっていたのだった。

※本稿は、『母の旅立ち』( CEメディアハウス)の一部を再編集したものです。

 

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『母の旅立ち』(著:尾崎英子/ CEメディアハウス)

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