相当やっかい
そもそも、母は病気を治したいと思っているのか?
本人にその気がないのに、快癒を祈るのは無駄なのでは?
母のがんは相当やっかいなものだった。
ようこ姉いわく、なかなか見たことがないほどの悪性度の高さ。
「治療方針としては転移があるから化学療法をし、そこで効いていたら手術に持ち込むというもの。抗がん剤というのは誤解を恐れずに言うたら「毒」を投入するようなものやから、悪性度の高いお母さんのがんにはめちゃくちゃ効きやすいわけよ。それやのに!
一度受けてみたらしんどかったんか、『抗がん剤なんてやったら病気になるわ!』と自己判断で治療をやめてしまってさ。それを聞いて絶句したけど……まあ、あの人らしいわ」
あの人らしい。
たしかに、そうだった。
化学療法をやめた母は、いかにも母らしく、代替療法にハマっていたのだった。
※本稿は、『母の旅立ち』( CEメディアハウス)の一部を再編集したものです。
『母の旅立ち』(著:尾崎英子/ CEメディアハウス)
「乳がんステージ4からの脳転移」底抜けに明るいがトラブルメーカーの母に残された時間はあと1ヶ月。京都で訪問医療のクリニックを開業している看取りのプロ医の次女による仕切りのもと、母を在宅で看取り、家族葬で送ることになる。母にいちばん迷惑をかけられながらも心優しき長女、気が強く明晰な次女、行動派の三女、四女の「わたし」、そしてほぼ戦力外の父が一致団結する。喧嘩したり、泣いたり、笑ったりした、「その日」を迎えるまでの20日間を描く実話