2024年11月に上演され、演劇賞をダブルで受賞した舞台『慟哭のリア』で主演した際の岩崎さん(写真提供:劇団俳優座)

今もぬぐえない戦争中の記憶

「戦争とは…」の初回は1995年。その前に、中国残留孤児を題材にした『とりあえずの死』という作品で全国をまわったところ、「そんな人たちがいたことを知らなかった」「いい芝居を見せてもらいました」という感想をたくさんいただいて。

戦争を知らない若い人がいっぱいいるのだから、じゃあ戦争について伝えようと、有志4人くらいが集まって終戦記念日に稽古場で朗読をし、自分たちの経験を聞いてもらう会を催したのです。

1回のつもりが毎年行うようになり、さまざまな作品に取り組んできました。気づいたら30年。まさか今日まで続くとは思っていませんでした。劇団内で「自分たちもやりたい」という若い人が増えたこともあり、最近は朗読ではなく、芝居の形で続けています。

「戦争とは…」で自分の戦争体験をお話しすることもありますが、本当は話すのがイヤなんです。やっぱり、つらいですから。実は私、今でも柿が食べられない。戦争中の記憶があるからです。

集団疎開先はお茶の産地で、あたり一面お茶畑。小学生だった私たちは、勉強もせず、お茶の実拾いに駆り出されました。なんでも、飛行機の燃料にするからって……。ある日、ガキ大将みたいな子が、柿がなっているのをゆすって落として食べよう、と。お腹が空いているから、そこにいた3人で「おいしいねぇ」とシャカシャカ食べました。

食べきれなかった柿を10個ほど先生に持っていったら、「ここで少しお食べなさい」と言ってくれて。でも、こっそり自分たちだけで食べたと言えなくて、「いいんです、先生たちで食べてください」なんて、いい子ぶっちゃった。そんな嘘をついたことが、いまだに心の傷になっているのね。