3代目社長には先見の明があった

わたしが入社して20年くらいは、会社の業績もよかったはずである。昇給率も高く(毎年十数パーセント)、小さな会社なのに、毎年福利厚生費も確保され、社員同士の映画鑑賞や食べ歩きやスキー旅行に補助が出た。

野球部のユニフォームまで作り、1泊2日の合宿までしたのだ。創立記念日には毎年、近くの如水会館でパーティが行われ、それ以外にもいろんな名目のパーティをしょっちゅうやっていたような気がする。

完全週休2日制はまだ大企業でも珍しかった時代に、いち早く実施したのは3代目社長の先見の明であった。

というより社長の健康不安が動機だったと聞いたが、それでも自分だけ休まず、会社全体を週休2日にしたのは、当時のかれはまだ偉かったのだ。

会社は小さいながら5階建ての自社ビルを持っていた。無借金経営で、全国5万社の優良企業のなかに入っていたそうである。

しかし後年、会社が傾くようになった。貧すれば鈍す、の例にもれず、かれは以前持っていたような柔軟性や寛容さを失い、独断的になっていったのである。

 

Eメールが無く、FAXが主流の時代だった(写真提供:Photo AC)