当時は「セクハラ」という言葉はなかった
当時はまだ、セクハラなんて言葉はなかった。会社のなかで、そういう言葉に該当する行為は、わたしの勤めていた会社では皆無だったといっていい。
しかし、どういうつもりか知らないが、女子社員の肩を気軽に揉むやつがひとりだけいたのである。急にうしろから近づいては、何人かの女子社員の肩を親しげに、声をかけながら揉むのだ。時間にして、数秒だったか。
わたしより1、2歳下の男だったが、わたしより上の役職だったと思う。わたしをクン付けで呼んでいたから。かれは女子社員に嫌われてない、と思ってたのだろう。好かれている、とは思わなかっただろうが。
当時、女子たちにもこういう、親しみを装った行為を、無下に拒絶できない雰囲気があった。うまく切り抜ける「大人の対応」(なにが大人だ)が求められたのだ。
こういうことをする男も、そういう雰囲気を見越して、軽い冗談に見せかけて女の体に触るという意識があったにちがいない。
わたしは、なんだこいつは、なんのつもりだ、と思ってはいたが、公然とその行為を咎めることもなかった。いまなら立派なセクハラである。
※本稿は『77歳、喜寿のリアル:やっぱり昔は良かった!?』(草思社)の一部を再編集したものです。
『77歳、喜寿のリアル:やっぱり昔は良かった!?』(著:勢古浩爾/草思社)
もはや文明がどん詰まりまで来て、私たちの暮らしは便利になっているはずなのに、
なぜか昔に比べて生きにくくなってきているのではないか。
時代遅れのあの当時のほうが、現在の進んだ時代よりもよかったのではないか――。
累計16万部突破のロングセラー『定年後のリアル』シリーズの著者が、
77歳の「なんの変哲もない日々」の近況を明かしつつ、
過ぎ去っていった「あの頃の時代」を徹底的に懐かしむ。