踏みとどまれた理由は
なぜ踏みとどまれたかと言えば、ごく一部の声が極端に大きく聞こえているだけだと、頭の隅では理解できていたからだ。この「頭の隅」が、さまざまな意思決定に対し重要な機能を担っている。
「冷静な自分」とも言い換えられる言葉で、私はたいてい冷静さを欠いているため、いい時も悪い時も頭の隅の存在を強く意識しながら生きている。そうしないと、とんでもないことになってしまうのは火を見るよりも明らかなのだ。
「頭の隅」は、世間体や常識といった客観性とは違って、もっと主観に基づいた存在だ。自分自身に対する信頼が土台になっている。「こんなことではへこたれない!」の感情的発露ではなく、「待てよ。ここで主体的に選びたいものを選び取る力が、私にはあるはずだぞ?」という感じ。
今回私が主体的に選び取ったのは、「さまざまな意見がございますが、身に覚えのないことであればスルー。私が携わる番組や著作物に支えられている人も、少なからずいるはずだから」だった。我ながら賢明な判断だとは思うけれど、ギアを入れ替えるにはまあまあパワーが必要だった。
ふと、国境なき医師団でガザに駐在していた『OVER THE SUN』リスナーのことを思い出した。面識はないが、互助会員(リスナーの愛称)だと人づてに聞いたことがある。誰かの役に立つ方法はひとつではないと、そっと肩に手を掛けてもらえたような気持ちになった。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。