カテクオーレ

・カテクオーレ――1回の食事に10時間、それでも行きたくなる価値がある

東京から佐賀県伊万里市にあるカテクオーレに行くには、まず福岡空港もしくは佐賀空港に飛び、さらに車で1〜2時間ほど。店に辿り着くだけでも一苦労ですが、そんなのはまだ序の口、本当に長いのは店に着いてからなのです。

というのも、カテクオーレでは基本的に事前に仕込みをしないから。その場で一から料理を始めるので、一品目が出てくるまでに小1時間、コースすべてを食べ終えるまでには5時間超え。東京からの往復も入れると、1回の食事に10時間ほどもかけることになります。

『一流飲食店のすごい戦略 1万1000軒以上食べ歩いた僕が見つけた、また行きたくなるお店の秘密』(著:見冨右衛門/クロスメディア・パブリッシング)

都市部からのアクセスが悪いうえに、食事に5時間もかかる。忙しい現代人のこと、そんな店に行くような暇がある人なんていないと思うかもしれません。

でも、カテクオーレは、正真正銘の超人気店なのです。なぜか。ひとえに、「なぜこんなに時間がかかるのか」ということに説得力があるからです。

たとえば私が訪ねたとき、席についてから40分後に出された一品目の「塩とミルク」は、目の前で一からミルクをゲンコウ(香酸柑橘の一種)と固め、五島列島の海水でつくった花塩とともに供されました。

塩のビビッドなアタックがミルクの旨味を十分に引き出し、全体的に酸味は強いのに角がない。スプーン代わりの焼き立てブリオッシュは、驚くほどのふわふわ感。これがゼロからつくったからこそ実現できる一瞬のアウトプットなのかと、一品目から度肝を抜かれました。

次の一品、牛のタルタルは、まず牛のスライスを炭に直接当ててほんのり火入れを施し、そして炭のなかに牧草を入れて藁焼きのように香りをつける。さらに次のパンツァロッティ(揚げパン)には、肉やエビ、チーズなどの佐賀県の恵みを餃子の餡のように包み込む。生地は発酵なしで、やはり目の前で一からこねてつくります。

こうした丁寧で繊細な調理工程をずっと覗いていられるという贅沢さ。「つくるのは5時間、食べるのは一瞬」というコントラストがおもしろいし、シェフが信じる「一番美味しい瞬間」に向けて、これだけの工程を練り上げる姿に感動します。