「ここでしか味わえない」という説得力

もっと遡ると、シェフは自ら農業も酪農もしており、自分で育てた野菜、自分で育てた牛のミルクを使っています。このプロセスも含めれば、食べるという一瞬に向けて費やされている時間は、実は5時間よりもはるかに長大なのです。

東京には日本中からいい食材が集まってきますが、畑や牧場からダイレクトにキッチンへ、というのはさすがに難しい。カテクオーレはそれを叶えているわけですから、ローカルの強み、ここに極まれり、です。

おわかりのとおり、「5時間もかかるコース」というのは魅力の本質ではありません。「自分が料理で表現したいことを実現するには、本当にそれだけの時間が必要なのだ」という哲学が感じられる。

だから、一度の食事に費やすには長すぎる時間を確保し、はるばる伊万里に出かけてまで、唯一無二の体験をしたいと思う人がたくさんいるのでしょう。

料理にかけられる待ち時間そのものが愛おしい。こんなふうに感じられるのは、おそらく、ほかではできない体験です。

そうなると、もはや「都市部からのアクセスの悪さ」はまったくデメリットではない、というのはいうまでもありません。弱点を補ってはるかに余りある価値を提示し、「ここでしか味わえない」という説得力があれば、その体験を求める人が多く訪れるようになるのです。