大村崑
(撮影:本社・武田裕介)
厚生労働省が公表している「令和5年簡易生命表の概況」によると、2023年の日本人の平均寿命は男性が81.09年、女性が87.14年となっています。80歳以上の高齢者が増えるなか、「90代は楽しいですよ。ぼくは今、最高に幸せです」と話すのは、93歳の喜劇役者・大村崑さんです。今回は大村さんの著書『93歳、崑ちゃんのハツラツ幸齢期』から一部を抜粋し、「高齢期」を「幸齢期」に変えるヒントを紹介します。

歩くのもしんどくて

病気してないからといって元気ハツラツとは限らないんですね。これが、加齢のやっかいなところです。「老い」というヤツが知らん間に悪さをするんですよ。あなたも油断してたら、えらいことになりまっせ。ぼくも気づいたときには、よたよた歩きの「ザ・おじいさん」になってましたから。

まず、体形が情けない。パンパンに膨らんだ腹回りは、1メートル近く。そこから、ほそーい腕と足がにょっきり出て、裸になったら、どこぞの昆虫みたいです。突っ張らかった腹だけはシワひとつないけど腕と足の皮膚はシワシワ。お尻もたるみきってダラ~リ。

姿勢もひどかったですね。膝は曲がり、腰も曲がって、背中は丸まり、肩と首が前に出て、どこから見ても「よ! 待ってました! 年寄り代表!」と掛け声が飛んでくるような姿かたちです。とにかく足腰が弱ってますから、椅子から立ち上がるのもひと苦労。やっとこさ立ち上がったかと思うと、今度は、足がちゃんと上がらず、床をするようにそろ~りそろ~り。歩幅はわずか10センチ。必死にがんばってるつもりでも、ちっとも前に進まないんです。

しかも、片肺だからすぐ息切れするんですよ。道の途中でひと息入れないと苦しくて歩けません。うちの家族ときたら、こんなとき冷たくてねえ。「今日はみんなで飯でも食いに行こう」と外に出るでしょ。妻の瑤子さんも息子たちも、ぼくを置いてスタコラサッサ。信号をさっさと渡って、その次の信号も渡って……。

あ、待って、行かないで。金、払うのぼくやで。