時計の針が逆回り

ところが、いざ、ライザップに行ってみると受付の女性がにこやかで感じがいいんですよ。しかも、トークが抜群にうまいときた。「筋肉は死ぬまで鍛えられます。崑さんもじきに引き締まったカッコいい体つきになれるし、体力がついて疲れにくくなりますよ、それに速く歩けるようになります」。

え? 速く歩けるようになる?

家族にいつも置いてきぼりにされて、歯がゆい思いにむせび泣いているぼくが、速く歩けるようになる!? 瑤子さんや息子たちと肩を並べて歩けるようになる!

「入会します」

それからです。火曜と金曜の週2回、バスと地下鉄を乗り継いで、1回1時間程度のトレーニングに通うようになりました。最初のうちは、そりゃもう悲惨でしたよ。何ひとつ満足にできないんですから。しかも、ろくに動いてないのに、トレーニングを終えたら疲労困憊。精も根も尽き果てて息も絶え絶え。地下鉄の階段が上れなくて、手すりにしがみつき筋肉痛をじっとこらえてたら、若い兄ちゃんが一段飛ばしで駆け上がりながら振り返りざまに「この年寄り、何してんの?」ってな顔で見るんですよ。悔しいーーー!

でもね、体は痛くても気分は爽やかなんです。それも、何十年も味わったことがないぐらいの爽快感。これには驚きました。そして、この気持ちよさに次第にはまっていったんですね。

86歳の春、時計の針が逆に回りはじめました。ぼくは、どんどんと若返っていったんです。