あと少しで、食道に穴が開くところだった
数年前、時間外診療を受け付けている病院に臨床医として勤めていたときのこと。
ある日の夜、高齢男性がのどの違和感を訴えて受診してきました。夕食後に高血圧と糖尿病の薬を服用したところ、のどがイガイガして胸に何かがつかえるような痛みを感じた、とのことでした。
症状を聞いて「心筋梗塞」の可能性があると思い、血圧を測定して採血し、エックス線撮影と心電図検査の指示を出しました。ところが、いずれも異常なし。
不思議に思い、同伴されていた奥様に「普段飲まれている薬を教えてください」と伝えました。すると、「これです」と差し出された薬が、包装シートをご丁寧に1錠ずつ切り離した状態だったのです。
もしやと思い、改めて胸部エックス線の画像を観察すると、胸の真ん中に異物っぽい影が! 「包装シート誤飲の可能性あり」と判断して、消化器内科の先生に連絡しました。内視鏡検査を行なってもらったところ、やはり食道の粘膜に包装シートが引っかかっていたようで、それを取り出すことで事なきを得ました。
もし気づくのが遅れていたら、食道に穴が開くなどの重大な結果になっていたでしょう。最悪の事態を防げたことに安堵したことを、今でも鮮明に覚えています。