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なぜ私がこんなことに……

私は毎春、お花見を楽しみにしていた。どんなに忙しくても、この日という満開の日は仕事を差し置いて、たとえ1時間でも、お弁当を用意して、彼氏とともに満開の桜を見に出かけていた。来年の桜の花は、もう見られないのかもしれない、などという考えが頭をよぎった。

それでも、診断結果の詳細がはっきりしないままに会社には出社していた。おそらく、やるべき仕事はいつものように前に進めていたと思う。が、あの頃のことは、よく覚えていない。

そして、私の悪性リンパ腫の種類が判明した。「びまん性大細胞リンパ腫」という難しい名称。さらに腫瘤(しこり)は首まわりだけでなく、右の横隔膜あたりにも見つかった。がんは骨髄にまでは転移していなかったので、ステージはⅢと説明された。幸い、私の悪性リンパ腫にはこの「がん」の特効薬といわれる分子標的治療薬、リツキサンが有効であることがわかった。

ちなみに、医師によると、この病気の原因、発症時期は不明とのことだった。遺伝性でもなく、単純にストレスとも言い切れず、予防策もなし。何が悪かったのかなど、考えてもしょうがないことと言われた。つまりは単純に、悪運を引き当ててしまったということなのか。

治療に入る前に、医師に「仕事はどうしたらいいですか」と訊いた。すると、「みなさん、仕事をしながら治療されていますよ」と言う。ウソでしょ、と思った。私が抱いていたがん治療のイメージとはまったく違っていたからだ。私は、がん治療といえば長期入院と思い込んでいた。悪性リンパ腫は血液がんということもあって、ほとんどの場合、治療のための手術はない。だから長期の入院も不要なのだろう。

私の場合は、初回に副作用チェックのため1週間程度入院する以外は通院で、8回の抗がん剤による点滴治療をするということになった。治療は約6ヵ月で終了する予定だ。もちろん、同じ悪性リンパ腫でも抗がん剤だけでなく、放射線や骨髄移植といった治療もある。移植ともなれば、無菌室に入って治療する。そう、治療の方法も、リンパ腫の種類や病状でそれぞれ異なるということなのだ。

会社の上司に病気のことを報告した。上司は「なるべく、治療に専念したほうがいいだろう」と言った。そして「このことは役員にも知らせる」と。私は企画制作部内の一つのグループを統轄する立場にあったが、その後、上司に呼び出され、降格を命じられた。

「お前はもう仕事には使えない」とは言われなかったものの、戦力外のポジションへの異動はまさにそれを意味していた。この先、自分の病気がどうなるのか、説明する術もなかったので、納得せざるをえなかった。何十年もの間、あんなにも一心に取り組んでいた仕事からも外されたことを悟った。ハズレくじを引くとはまさにこのことか。人生がひっくり返ってしまったのだ。