それとまた、女性を頑なに舞台に上げない歌舞伎界というのもおかしいでしょう。
山田洋次監督が、『文七元結』の従来のやり方に納得のいかないところがあるから、自分流に演出してみたい、って僕を主役の左官長兵衛に指名してくださった。配役の話になって、「普段映画撮っておられる時みたいに、女優さん使ったらどうですか?」って言って。
それこそ勘三郎お兄さんの『浅草パラダイス』に寺島しのぶちゃんも僕も出てて、彼女は子供のころからずっと歌舞伎座の舞台に立ちたかったと言ってたことを覚えてて、おこがましい言い方だけどその夢を叶えてあげたかった。監督も是非、ってなって、しのぶちゃんに決まったんです。
歌舞伎界って、頑なに女子を拒んでるわけじゃなくて、たとえば『助六』の揚巻みたいな役は女性がやると生っぽくなっちゃうんですよね。でも世話物と書き物(新作)だとさほど違和感ないし、かえって、いい場合もあると思う。
それで『文七元結』の楽の日、しのぶちゃんがお父さんの菊五郎さんのところに挨拶に行く、って言うから、ああ、俺も行きたい、ってなって。
菊五郎さんは終始ご機嫌よくて、まぁ、いろんな話をしてお酒も進んでね。そしたら急に「魚屋宗五郎やれよ、歌舞伎座で。俺教えるから」。もうびっくりして。だって息子さんの菊之助さんも歌舞伎座ではまだやってないのに。
こういう嬉しいことがあるたびに、勘三郎兄さんに褒められたいとか、でも嫉妬するかなとか思います。今でも時々夢で叱られるし、いつでも僕の心の近くにいるんです。
今日はいっぱい勘三郎兄さんの話をしましたけど、中途半端にはもうあまり話したくない。勘三郎さんは凄かった、凄かったって言ってると、それで自分が終わっちゃう気がする。一生あの人は超えられないとは思うけど、でも生きていれば死んだ人より可能性はありますからね。