奥井さんが鼻の下の産毛が目立つようになったと感じ出したのは、閉経前後の50代前半のことだった。

「最初はカミソリで剃っていたのだけれど、剃っても剃ってもすぐに生えてくる。しかも濃くなる一方なんです。そして、50代の後半になると剛毛が生えてくるようになってしまいました。頭髪は薄くなるのに、ひげは濃くなるなんて皮肉よね。友達に打ち明けたら、『男性ホルモンの仕業だからしょうがない』なんて言うの。そんなことあるのかしら? と思ったのだけれど……」

ストレスや更年期によりホルモンバランスが崩れると、男性ホルモンが優位になり、奥井さんのように、頭髪が薄く、ひげが濃くなるケースは珍しくないようだ。

「まったく嫌になっちゃう。でもそれが現実である以上、指摘してくれる人がいるのはラッキーなのかもしれませんね。それに娘が『永久脱毛しちゃえば?』ってアドバイスしてくれたんです。婦人科から紹介してもらったクリニックでレーザー脱毛の施術を受けました。カウンセリングも含めて6回ほど通い、費用は2万円くらいだったでしょうか。痛かったけれど、これで人としての尊厳が保たれるならと思って耐えました」

人としての尊厳を保つため。それがひげの脱毛をした理由だと知って驚いた。

「岸惠子さんや八千草薫さんを軽んじる人はいないでしょう? もちろん、女優さんとしてのキャリアとか人格の問題もあると思うけれど、女を捨てていない人は、いくつになっても尊厳を保つことができるんですよ。実際にひげの脱毛をしたら、どこで誰に至近距離から見られても恥ずかしくなくなり、自信が湧いてきました。実は、脱毛を決意した勢いでヘアウィッグもあつらえたんです」

なんと奥井さんは、頭髪の悩みも同時に解消していたのだ。確かに、草笛光子さんを彷彿とさせるようなエレガントなヘアスタイルが決まっている。

「明るい色の服を着るようになったり、何十年ぶりにマニキュアを塗ったり、近頃はとても楽しいの。自信が生命力に直結していることを確信しました。綺麗にしていると娘も喜ぶし、いろいろな場所に誘い出してくれるようにもなって、なんだか若い頃にタイムスリップしたみたい」

たかが脱毛、されど脱毛。年齢を重ねた今だからこそ脱毛が必要なのだと語りはじめた奥井さんの話は、強い説得力に溢れていた。


人生後半で「脱毛」を決意した理由
【1】「お母さん、ひげが生えてるよ」と言われ…
【2】「襟足が汚い」の一言がトラウマに