約三十年前の認識

オープニング時には、先生がデザインした、赤と黒と白の三色のアロハシャツをスタッフ全員で着た。夏物とはいえスーツを着るのは暑いけれど、アロハを制服と決めれば、外の行事が楽になるということからだった。

オープニングのセレモニーのため、ミュージアム前の広場を会場に向かっていると、脇を通る招待客が連れの人と話していた。

『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(著:越尾正子/小学館)

「やなせたかしって、売れない絵本か何か描いているんだろう」

という声が聞こえた。

「えっ、なんか聞いたことのある言葉だな」と思った。なんと昨夜、やなせ先生も同じことを言っていたのだ。

「町の人は、オレのことを売れない漫画家か絵本みたいなもの描いているやつだとしか思っていないんだぜ」

やなせ先生自身が認識していたように、おおよそ三十年前のアンパンマンとやなせ先生の認識は、こんなものだった。