『あんぱん』中沢元紀　海軍に志願した千尋の感情を見事に表現　『アンパンマンのマーチ』を喜怒哀楽を込めて読み上げたオーディションで制作統括が見ていたのは…

嵩にすべてをぶつけて

千尋役を選ぶにあたって念頭にあったのが、６月１２日放送の第54回の場面だ。海軍に志願した千尋が駆逐艦に乗る前に、小倉にいる嵩に会いに来る。隠していたのぶへの思い、戦争がなければしたかったこと。これまで空気を読み、自分の気持ちを抑えてきた千尋が嵩にすべてをぶつけるシーンだ。

「嵩に放つ言葉は、戦争に対する言いようのない怒りの意味合いもあるし、悲しみの意味合いもあるし覚悟もある。いろんな感情がもうごちゃまぜになっています。小倉でのシーンは創作ではなく、史実を元にしていて、やなせたかしさんが残した言葉からシーンを立ち上げていきました。嵩とこの会話をするシーンにはまる人は誰か、となったときに、『アンパンマンのマーチ』でその悲しみの感情と怒りの感情を読み上げた中沢さんが、すごくはまったという感覚がありました」と明かす。

ただ、演技だけではなく、中沢さんの人柄にも惹かれたという。中沢さんと倉崎さん含め監督陣、脚本の中園ミホさんがオーディション中に会話をしていたときのことだ。

「オーディションは、みんな自分を良く見せようとしますが、中沢さんは自分の弱みも包み隠さず全部話してくれました。オーディションという場ですが本当に人間と人間の対話みたいな時間で、この人だったら千尋をいけるなっていう感触を持ってオファーしました」と語る。