非日常を求める旅行者のニーズの高まりなど、近年はホテルに求められる価値は変化しています。単なる宿泊の場ではなく、「滞在そのものが目的になる場所」が注目を集める中、どのようなコンセプトで空間づくりが行われるのでしょうか。ドイツの権威あるデザインアワード「iF DESGN AWARD 2025」を受賞した「ラフォーレ箱根強羅 湯の棲 綾館」で、同館を経営する森トラストグループ・伊達美和子社長と、デザインを手掛けたインテリアデザイナーの座間望さんに聞きました (取材・文:清野由美 写真提供:森トラスト)
ほっとする時間にうってつけの宿
客室のドアを開けると、彼方の山並へと視界が開け、風がさっと通り抜けていく。箱根観光の拠点、「箱根湯本」駅から箱根登山電車、箱根登山ケーブルカーを乗り継ぎ、「中強羅」駅から木立の中の道を歩いて数分。「ラフォーレ箱根強羅 湯の棲 綾館(ゆのすみか あやのかん)」は、都会の喧騒から離れ、ほっとする時間を持つのに、うってつけの宿だ。

客室
2024年に「ラフォーレ箱根強羅 湯の棲」新棟としてオープンした綾館は、全22室すべてに露天の温泉風呂が付く。テラスに出ると、湯がなみなみと張られた浴槽が、表面に山の緑をゆらゆらと映し出す。

綾館は全室露天風呂付き。箱根の硫酸塩泉が、熱すぎず、ぬるすぎない適温で張られている
宿のコンセプトは、「五感で浸かり、豊かな時を織りなす」というもの。その言葉通り、館内はロビーから客室の隅々にまで、さりげない洗練と、快適さが行き渡っている。今年3月にはドイツの権威あるデザインアワード「iF DESGN AWARD 2025」を受賞し、同館ならではのインテリアと、おもてなしのデザインが国際的な評価を得た。
最初に五感を刺激するのが、漆黒の壁と朱赤のライトで彩られたロビーだ。スマートチェックインを導入したフロントは、ミニマムでありながら、宿泊客を瞬時に非日常に連れていく。

ロビーでは、伐採した樹木や箱根火山由来の岩をインテリアに取り入れて、土地の記憶を再現した。
客室は、ダークブラウンの木目を基調にしたシックなトーン。ベランダ越しに強羅のダイナミックな光景が見渡せて、気分がどんどん開放されていく。部屋からの眺望を邪魔しないように、室内のライトは自然光に近い間接照明。外の景色と内部の落ち着いた雰囲気が、ごく自然につながっている。