(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表している2023年の「介護給付費等実態統計月報」によると、85歳以上の59.5%が介護認定を受けています。高齢の親を子どもが介護するケースも増えるなか、「親思いの優しい人間が結果的に損をしてしまう」と語るのは、自身も介護経験がある作家・姉小路祐さんです。今回は、姉小路さんの著書『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには』から抜粋し、介護・相続をめぐる事例を紹介します。

父親を引き取った長男

F男さんの父親は、その父親から受け継いだ米穀販売業をしていたが、スーパーマーケットにお客が流れていったので廃業して、ビルの警備員として後半の人生を送った。F男さんたち2人の息子は独立し、F男さんの父親も警備員を定年退職して穏やかな余生を送るつもりであったが、妻(F男さんの親)が病気で倒れた。

F男さんの父親は妻の介護を頑張ったが、約4年後に他界した。夫婦仲は睦まじくていつも一緒に行動していただけに、取り残されてしまった父親の孤独感による落ち込みも激しかった。寂しさを紛らわせようと酒量を増やし、元々良くなかった肝臓を悪くして入院することになった。

F男さんの父親は、2人の息子に「どちらかと一緒に暮らしたい」と助けを求めた。F男さんの弟は「兄さんが長男なんだから、頼むよ。でも任せっきりにはしない。お父さんのために必要なお金は、僕が半分出すから」と言った。弟はその1年前に脱サラをして、自宅の一部をカフェにしており、父親を引き取るスペースがないということも理由にしていた。

F男さんの家も広いわけではないが、部屋は工夫すれば用意できた。そのうえF男さんは古風なところもあって、「長男なんだから」という言葉に弱かった。

弟は、ときどきF男さんが引き取った父親のところに顔を出し、言葉どおり介護費用の約半分を負担し、空き家となった実家のほうにも頻繁に出向いて、玄関周りの清掃や裏庭の雑草刈りを行ない、屋根や雨戸などの修繕をしてその費用も負担した。実家は築年数が経っていて老朽化していた。