(『あんぱん』/(c)NHK)

 

今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしと、妻・暢の夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。出征した嵩は中国で壮絶な飢えを体験し、終戦を迎えました。第63回では、焼野原となった高知の街で嵩とのぶが再会。物語は新たなステージに移ります。朝ドラでは異例といえるほど正面から戦争を描いた『あんぱん』。北村さんに物語の前半を振り返ってもらい、作品に込めた思いを聞きました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

「役として生きる」に近い

やなせさんをモデルにした役を演じるにあたって、『アンパンマン』を読み直して、やなせさんがインタビューで受け答えをしている動画も見ました。どこかひょうきんな印象を受けつつも、戦争に対する思いや、人生に対する達観がある。やなせさんが逆転しない正義を描くに至るまでをどう演じるかは、すごく考えながらやってきました。やなせさんの哲学と柳井嵩の哲学を、北村匠海がつなぎ合わせていると思っています。

これまで、連続して1年間撮影するという経験がありませんでした。どうしようもないところのある嵩は、僕も正直イライラしますけど、その反面、もっと嵩がいろいろな人に愛されてほしいという思いもある。

自分は役に対してどこかドライな部分があって、例えば演じている役が殺人を犯したら嫌われるのは当たり前だし、それは役者の本望。その考えは変わっていませんが、嵩とは一緒に過ごしすぎているので、嵩を愛してくれる人は本当にいるのだろうかと不安になる。のぶと嵩がもっと愛されてほしいと思っている自分に気づいたときは、不思議でした。

俳優として、「役として生きる」というモットーがあります。嵩役はそれに一番近いところまできた感覚がある。嵩として生きてきた時間と言葉が自分の中にあるから、脚本を読んだときに、「この嵩は違和感がある」と思ったら、監督さんに相談したりもしました。