千尋とのシーンは忘れられないものに
<『あんぱん』の脚本家・中園ミホさんは「やなせさんを描くということは戦争を描くこと」と明言。劇中では、朝田家の石工・豪が戦死し、嵩の弟・千尋(中沢元紀)は海軍士官となり駆逐艦に乗った。乗艦を5日後に控えた千尋が小倉にいる嵩に会いに来て、実はのぶのことが好きだったことや戦争がなかったらやりたかったことを吐露する場面は、放送時間15分のほとんどが2人芝居だった>
撮影では15分以上カメラを回したんです。千尋が涙を流さないテイクがOKとなりました。「役者あるある」なんですが、元紀くんのなかで「これでよかったのか」という思いがあったままでした。嵩からすると、涙を流すことはすべてではないし、海軍の軍人として涙を流さない千尋が素敵だと感じたんです。嵩の前で思いがあふれてしまう元紀くんのお芝居は、忘れられないものになりました。
<中国に上陸した嵩たちの部隊は、敵の攻撃によって補給路が絶たれる。食料難が続くなか、空腹で倒れてしまう嵩。夢のなかで父・清(二宮和也)と言葉を交わして――>
やなせさんは実際に戦地で飢えを経験されました。僕も戦争パートの撮影では、飢えを演じるためにも食事制限をしました。やはり生きることと食は繋がっている。逆転しない正義とは食べることであり、生きることだといろんなシーンで思っています。 食べて涙が出る場面や「生」を実感する瞬間を、『あんぱん』ではすごく大事にしています。
餓えで倒れた嵩が、清と再会したシーンでは、嵩が少しずつ子供になっていくような演技をしました。清と過ごしたころの嵩はまだ子供。微々たる変化ですが、座り方を変えて体育座りのようにしました。しゃべり方や、上を見る感じが子供のころの嵩に見えるといいなと思ったんです。監督さんと二宮さんが会話をしているときに、二宮さんが「嵩、どんどん子供になっていくじゃないですか」とさらっておしゃって、「ばれた」と思いました。