のぶの一歩先へ

<のぶが「愛国の鑑」と言われるようになる一方で、嵩は自由な空気の東京で学んだことで、2人の思いはすれちがう。戦後、千尋を失った嵩と、夫・次郎を亡くしたのぶが再会したのは第63回だった。教師として戦争に加担したことを悔いるのぶに、嵩は「逆転しない正義」を見つけることを誓った>

(『あんぱん』/(c)NHK)

のぶへの思いは非常に言語化が難しいんです。自分の前をまっすぐ走っていくのぶに嵩はずっとあこがれて生きてきた。ドラマ的にわかりやすく言うと「好き」という言葉に集約されてしまう。でも、実際はもっと複雑で、「恋人になりたい」みたいな感情とは別。だからこそ、気持ちを伝えるかもじもじしてきましたし、「今は違う」を繰り返した。

<幼いころから、のぶに特別な思いを抱いていた嵩だが、気持ちが伝えられないまま、のぶは年上の機関士・次郎と結婚。千尋が「のぶが好きだった」ことも嵩に大きな影響を与えたという>

のぶの幸せを願っているので、のぶが結婚した時には、死にそうなくらいショックを受けましたが、「自分と一緒になることがのぶの幸せかどうかも限らない」と考えてずっとグルグルしていたんです。

焼野原となった高知の街で、嵩とのぶが会話を交わす場面では、監督さんと「戦争を経て、ここで嵩が一歩のぶの前に立たないと、のぶはいつまでたっても嵩に好意を抱くことはできない」と会話をしました。嵩のモデルのやなせさんは達観した考えがあり、だからこその言葉や絵が生まれてきている。

嵩はこのタイミングで「達観」に至らないと、のぶがこの先嵩を好きになれない。だから、この焼野原のシーンは、次郎さんをトレースするように、のぶに背中を見せることを意識して演じました。

ただ、嵩の心情としては、「のぶに気持ちを伝えるべきではない」と思っている。次郎さんや千尋という、のぶのことを思ってきた人たちを差し置いて、自分が幸せになるべきではないという考えでした。