一方で、芝居をしている先輩や同級生たちを見て、これはこれで面白いのかも、と思うようにもなって。そこで渡米して2年たった頃、いったん休学して、日本で芝居の基礎を学び直そうと帰国したんです。

アメリカで勉強していた「メソッド」という芝居の方法論を学べる養成所を探して、2年ほど勉強していた頃、俳優としての仕事が決まり始め、結局アメリカに戻るタイミングを失いました。

いつか映画を創りたいという思いは持ちながら、俳優としていろいろな映画監督と出会ううちに、《監督》という職業の苦しさに気づいてきたんです。昔みたいに映画会社に育ててもらうわけではなく、今の映画監督はほぼフリーですから。この作品が失敗したらもう次は撮らせてもらえない、という背水の陣で毎回、闘っているわけですね。

一方、僕は俳優としての知名度だけで「映画、撮りたいんです」と言えば、撮らせてもらえる状況にもなってきた。でも、それってまったくフェアではないと思ったし、映画に対する覚悟がまったく違うと感じたんです。

自分が映画を創ったところで映画監督には相手にされないだろうという気がして……。もう映画は創ってはダメだという思いが強くなっていきました。

後編につづく

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