利用者が提供者に過剰なサービスを求めてはいけない

そもそもマニュアルとは、「誰がやっても同じ結果」を得られるよう定められた手引書である。そして、この「誰がやっても同じ結果」になるというのはとても重要だ。

日常生活の動作では能力よりも習慣性がより物を言うのは、たぶん誰もが実感することだと思う。家事なんかは長年続けると何も考えずとも体が動くようになるが、その境地に到ってようやく「ていねいな暮らし」的なものに興味が向くようになる。主に家事従事者だった人が中年以降になるとどんどん手作り保存食や園芸なんかに手を出し始めるのは、そういうことなのだと私は理解している。どんな作業であれ、寝ていてもできるレベルまで習熟してこそ、はじめて「心」を乗せる余裕が出てくるというものなのだ。

(写真提供:Photo AC)

だが、介護の担い手は必ずしもベテランばかりではない。当然ビギナーもいるし、職場が変わればベテランでも一時的には新人になる。そうした環境下において、質が平均して保たれる介護を求めるなら、個人技に頼ってはいけない。マニュアルがしっかりしていて、かつそれに沿った運用がなされているのが一番だ。

まして、マニュアル以上の感情労働をスタッフに求めるのは過剰要求だろう。うちの家族にはどうしても「きめ細かな心遣い」が必要だというなら、そこは自分が提供すればよい。オプション選択権はサービス利用者にあるが、オプションの品揃え自体は提供者が決めることであり、利用者が提供者に過剰なサービスを求めてはいけないのだ。たとえ「金を出している客」であっても。