歩道の隙間、建物の陰、水面……街を歩くとあちこちで雑草に出会います。「それぞれの植物たちが、すばらしい“個性”を秘め、それらを武器として生きぬいてきている」と語るのは、甲南大学名誉教授の田中修さんです。今回は、田中さんの著書『雑草散策-四季折々、植物の個性と生きぬく力』から一部を抜粋し、身近な雑草たちを紹介します。
これはなんじゃ?
春から初夏、関西地方では、5月のゴールデン・ウィークのころに、白い花を咲かせる樹木があります。花は、4つに深く裂けた細い花びらで、いっせいに開花すると、多くの花が重なるように咲き、離れて見ると、まるで真っ白の雪が若葉に降り積もったように見えます。
そこで、「これは、なんじゃ?」「なにものなんじゃ?」といわれたのが訛って、この植物は別名「ナンジャモンジャ」の木といわれます。これはモクセイ科の植物であり、原産地は中国や日本、朝鮮半島で、日本でも自生しています。岐阜県の土岐市では、この植物が「市の木」となっており、中津川市蛭川奈良井区長瀞には、樹齢100年以上、高さ約13メートル、枝張り約10メートルという巨木があり、国の天然記念物に指定されています。
正式な植物名は、「ヒトツバタゴ」です。これは、「ヒトツ・バタゴ」と区切って読まれ、「「バタゴ」はなんという意味か」と疑問に思われますが、これは、「ヒトツバ・タゴ」と分けられる名前です。
この植物は同じモクセイ科のトネリコに似ており、トネリコを別名「タゴ」というのに由来します。トネリコの葉は、「小葉(しょうよう)」とよばれる何枚かの小さな葉っぱに分かれた「複葉」であるのに対し、この植物は、葉身(ようしん)と葉柄からなる1枚の葉っぱの「単葉」であることから「一ツ葉」という語が冠せられています。