一日の間にメシベが移動する

この植物では、朝、花が開いたときには、メシベはオシベよりよく伸びて離れています。健全な子どもをつくるために、メシベは他の株に咲く花の花粉がついてほしいのです。昼過ぎに、この花が萎れるころになると、一つの花の中で、メシベが反り返ってうしろにあるオシベにくっつきます。

自分の花粉を自分のメシベにつけて、タネをつくるのです。もしこのときまでに、他の株に咲く花の花粉がほしいという願いがかなえられていないなら、花が萎れる直前に、自分の花粉でタネ(子孫)をつくるのです。

『雑草散策-四季折々、植物の個性と生きぬく力』(著:田中修/中央公論新社)

多くの植物たちは、他の株に咲く花の花粉がメシベにつくことを望んでいます。でも、花粉の移動は、どこに飛んでいくかわからないハチやチョウなどの虫に託しています。そのため、「花粉が運ばれてこなかったら、子孫を残せない」という不安を抱えています。

そこで、その不安を打ち消すように、「願いがかなわないなら、自分の花粉を自分のメシベにつけて子どもをつくる」という、したたかな慎重さを身につけているのです。