昆虫の種類によって色の好みに違いがある

「アントシアニンに昆虫を忌避させる性質はないが……」

稲垣教授が疑問を呈した。

「そうです。でも、カメムシの色の好みに違いがあるかもしれませんよね」

「確かにその可能性はある」

教授がつぶやいた。

多くの昆虫は青色から紫色の波長に誘引されることが知られている。しかし、昆虫の種類によっては緑色の波長を好むものもいる。そうだとすれば、穂を紫色にすることで、それらの昆虫を忌避させることができるのかもしれない。あるいは忌避までさせなくても、緑色の波長を目印にしていれば、紫色で種子を見えにくくさせることができるかもしれない。

「ただ、先生……」

出雲さんが残念そうに言った。

「今のところ、その傾向はなさそうです」

水槽の中には、ムラサキエノコロにもたくさんのカメムシが群がっていた。ただ、どのカメムシも穂についた毛に邪魔されて、うまくタネにたどりつくことができていないようだった。集計してみると、図のような結果が得られた。

<『雑草教室-図鑑が教えてくれない植物たちのひみつ』より>

「ミナミアオカメムシだけは少し差があるようだけど、データ全体を見ると、明確にムラサキエノコロの方が数が少ないということはなさそうだね」

どうやら、アントシアニンの紫色に、カメムシを忌避させる効果までは、なさそうだ。

謎解きは、ふりだしに戻ってしまった。