身近に生える植物たちには、図鑑には書かれていない多くの秘密があります。そこで今回は、雑草学を専門とする、静岡大学大学院教授・稲垣栄洋さんの著書であるエッセイ風ミステリー『雑草教室-図鑑が教えてくれない植物たちのひみつ』から一部を抜粋し、「植物サークル」の学生たちとともに植物の謎を解明していきます。稲垣教授は、メンバーの岡山さんと「コナギ」の秘密に迫るそうで――。
田んぼの雑草
田んぼの雑草の代表的なものには、コナギがある。
コナギは、ミズアオイとよく似た植物である。ミズアオイは大型なのに対して、コナギは小型である。そもそも昔はミズアオイとコナギは区別されておらず、どちらも「ナギ」と呼ばれていた。ナギは「菜葱」という意味である。ナギは田んぼの雑草ながら、野草として食べられていた。ちなみに根っこ(白い葉鞘のところ)を食べるのが根葱(ネギ)となったとも言われている。
ミズアオイも田んぼの雑草として、問題になっている地域もあるが、全国的には数を減らしていて、絶滅危惧種に指定している地域も多い。
田んぼは人間にとっては、見慣れた風景だが、人間が作り出した特殊な環境である。
何しろ、水を入れたり、抜いたりするし、イネを育てるために草取りもする。
そのため、田んぼには、田んぼという特殊な環境に適応した限られた植物だけが生えるのである。それが「田んぼの雑草」である。
特にコナギは、田んぼという特殊な環境に適応して、進化をし過ぎて、湿地や小川のような田んぼ以外の水環境では暮らすことができなくなってしまった田んぼのスペシャリストである。
弥生時代の田んぼが広がるこの場所は、水田遺構の上に、湿地の土で埋立てて造成した場所である。そのせいか、湿地の植物は見られるが、肝心の田んぼの雑草が見られないのだ。これでは、弥生時代の田んぼを再現しているとは言えない。
それが、稲垣教授の指摘である。
「とりあえず、調べてみるか」
稲垣教授は、さも面白くなさそうな顔をしながら、田んぼ用の長靴に履き替えた。