二次創作についてのガイドラインを定めた

同人文化の中では、版元と創り手の間に見えない仕切りのようなものがある。そういう状況を知るにつけ、初音ミクに関してはできるだけ二次創作に関するルールを定めてクリエイターが自由に創作できるような環境を整えたほうがいいと思いました。お互いが空気を読み合うのではなく、ガイドラインを定めよう、と。

というのも、そもそも歌声の楽器として生まれた初音ミクには、漫画やアニメのキャラクターとは違って守るべき原作というものが存在しません。もとよりクリエイターの創作を促すツールとして誕生したものなので、せっかく盛り上がっている二次創作を制限するよりも、この勢いを萎縮させずに育てたほうがよい、と考えたのです。

ここまでであればいいというガイドラインをつくり、与える許諾の範囲を示して、版元側でルール化する。二次創作はコソコソと黙認状態で行うような後ろめたい行為じゃない、そう示そうと考えました。そうすればクリエイターが自由に創作できるようになるんじゃないか――それが最初に思ったことです。

そこで、公序良俗に反する使用はダメだとか、人のものを自分のものだと偽って利用することはダメだとか、商売のために使うことはダメだという基本的なルールをつくって、それを守った使い方であれば、二次創作物をつくってネットで公開しようが、動画投稿サイトで公開しようが、そこは自由にやってかまわないと定めました。

そうした規定を定めた「二次創作についてのガイドライン」を2007年12月に公開し、キャラクターを使って二次創作するにあたってのルールを明確にしました。これによって、クリエイターが自由に二次創作できるような環境を整備しました。

最初のガイドラインをつくったのは2007年のことでしたが、その後2009年6月には、より明確で法律的にも齟齬のない利用許諾となるよう「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」を制定し、許諾範囲をまとめた「キャラクター利用のガイドライン」を公開しています。

※本稿は、『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(著:伊藤博之/中央公論新社)

本書は伊藤氏の歩みをたどりながら、「ツクルを創る」「収穫モデル」「メタクリエイター」等々の経営哲学を紹介。

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