デジタルコンテンツに国境はなかった
初音ミクの海外人気の広がりを直に目にしたのは、2010年ごろのことでした。アジア圏で開催されていた、とあるアニメ・ゲーム関連のフェアを見にいったんです。
そのフェアには日本のアニメ作品はほとんど出展がなく、現地のアニメやゲームが出展されていた。それらの一般企業の出展エリアの他に、大きな空間にたくさんの小さな出店が並んでいた。そこで売っているグッズを見てみたら、だいたい4店に1店くらいの割合で品揃えの中心がミクだったのです。
そのグッズはすべて違法のものでした。Tシャツにしても、ネットに公開されている膨大な初音ミクのイラストをプリントして売っているような代物だった。けしからん話ではあります。しかし、それによって人気の広がりの大きさやニーズを確認できた。その頃から可能性を感じていました。
2010年にアメリカの「ニューヨーク・アニメ・フェスティバル」に参加したときも、初音ミクの人気がかなり大きく広がっているのを実感しました。初音ミクのライブ映像を鑑賞するイベントが開催されていたのですが、そこにも会場に入り切らない数のファンが長蛇の列をなしており、結局何度かに分けて開催された。
その翌年の2011年7月には、ロサンゼルスの大型ライブ会場であるノキア・シアター(現ピーコックシアター)で、初音ミクにとって初となる海外ライブ「MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES “はじめまして、初音ミクです”」が開催されました。チケットは発売2週間で完売しました。
世界の人々は、ミクとどのようにして出会ったのか。最初は不思議だったのですが、答えはやっぱりインターネットだったんですね。世界はインターネットでつながっている。YouTubeをきっかけに知って、動画を観てファンになる。デジタルコンテンツに国境はなかったということが明らかになった。
※本稿は、『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『創作のミライ-「初音ミク」が北海道から生まれたわけ』(著:伊藤博之/中央公論新社)
本書は伊藤氏の歩みをたどりながら、「ツクルを創る」「収穫モデル」「メタクリエイター」等々の経営哲学を紹介。
「ボカロ文化って何?」という読者でも、創作の根源的な意味を考えたり、AI時代を展望したりするヒント満載の一冊。