子どもたちが3人とも学校へ上がってからは、友人の誘いで保険のセールスを始めることに。訪問営業では「夫に聞かないと決められない」という妻が多いことに気づき、夕食後に再度訪れるといった努力を重ねた。そうして入社早々、営業成績上位にランクイン。収入は上がったものの、保険という商品は自分が夢中になって売りたいと思えるものではなかったそうだ。
1年ほどで保険の仕事を辞めた頃、友人の夫がポーラ化粧品の営業所(現・ポーラショップ)を始め、販売員を募集していることを知った堀野さんは、「思わず、『その仕事、私にもやらせて!』と叫んでしまいました」。
娘時代は戦争中。結婚してからも生活に追われて、化粧をする余裕などなかった。
「顔を洗ったらそのまんま。そんな私を見て、夫が『女にはみだしなみってものがあるんだよ、口紅くらいつけなさい』とあきれたように言ったのが心に残っていました。向こうは夜の街で、きれいにお化粧した人を毎晩見ていたのでしょうからね」
その後、友人宅で会った女性がポーラの化粧品を使っていると知り、当時あった月賦払いで基礎化粧品を買うように。
「憧れの化粧品を使えるのが嬉しくて、毎朝毎晩、うっとり容器を眺めながらお肌の手入れをしたものです。友達に『最近きれいになったんじゃない?』なんて褒められると、すかさず化粧品の良さを語って勧めていたから、まさにこの仕事は天職じゃないかと」
販売員になれば、定期的な研修で新しい製品、お手入れやメイクの方法を学ぶこともできる。
「お肌で悩んでいたお客様がきれいになると、本人も喜ぶし、私も嬉しい。化粧品の販売には、ただモノを売るだけじゃ得られない張り合いがあるんです」
そうして63年間、堀野さんは大好きな化粧品の販売を続けてきたのだ。