指揮官の「格」
同じ「師団」や「連隊」と名乗っていても、その規模が全く異なれば、作戦に支障をきたしかねない。こうした懸念の解消に陸上自衛隊が本気で取り組めば、それは、杞憂に終わるかもしれない。日米双方が緊密に連絡を取り合い、顔を合わせ、共同訓練を重ねれば、お互いがお互いを理解できる可能性はある。
だが、そうした見方は、あまりにも楽観的に過ぎると私には思える。意思疎通を緊密にしようとしても、指揮官同士の「格」の問題が生じてしまうと考えるからだ。
例えば、連隊長を務めるのは、どこの陸軍でも大佐クラスが一般的である。陸上自衛隊の場合は「1等陸佐」ということになるのだが、英語では「Colonel(大佐)」である。「連隊」の規模が違い過ぎれば、作戦現場における日米間の調整を大佐同士で行う際に齟齬が生じかねない、というのが私の懸念だ。
何を言っているのか、階級が同じであれば問題はないではないか、と思われるかもしれない。あるいは、階級に関係なく分かりあうことは可能だ、という考え方もあろう。だが、同盟国同士の対話においても階級は極めて重要であり、しかも階級に見合った経験を積んでいなければ話はかみ合わない。2000人を統率する経験を有している指揮官と、600人しか率いていない者の経験値はおのずから異なる。
米海兵隊の海兵遠征軍は3個しか存在しない。このうち、沖縄の第3海兵遠征軍(III MEF)は唯一、米国国外に司令部を置く海兵遠征軍である。つまり、海兵隊のみならず米軍全体を見渡してみても極めて重要な部隊であると言える。
おそらく、III MEF司令官と第15師団司令官とでは見える景色が全く違う。第15師団長が緊密にIII MEF司令官と意見交換することは、良い勉強になるであろう。だが、中国と対峙する最前線である沖縄の師団長は、勉強するためにいるのではない。有事ともなれば、米軍と肩と肩を組んで戦わなければならないのだ。この時に、司令官同士の間で経験、識見、力量に大きな違いがあれば、問題が生じるのではないだろうか。