「俳優である僕が、俳優ではないポジションにつくからこそできることはあると信じてがんばりたい」

 

こんなふうに考えるようになったのは、実は健一を演じたからではなくて、以前から思っていることなんです。僕たち俳優は、狭いコミュニティや限られた場所の中で演技を磨いています。一般企業でもそうですよね。業界の中で切磋琢磨し、いいものを作って、利益を出す。

でも僕は、日本の俳優のおかれる状況について思うところがあります。映画界、エンタメ界をよりよくするために、みんなで協力し合えないだろうかと考えるようになって……。

日本の俳優って世界基準と比べるとギャラが安いんです。安いからいっぱい仕事をしなくてはいけない。でも、ホントに役作りにこだわるなら、理想的な仕事量は、年に1本か2本だと思うんです。そうしたら一つの作品に、とことんこだわることができる。

日本には素晴らしい俳優がいっぱいいるので、こんな過密スケジュールでもなんとか回していくことができています。でも、もっとゆとりあるスケジュールになれば、作品や仕事のクオリティが高まって、世界に打ち出せる作品ができる可能性が増えるのではないか。

今、やらなくてはいけないのは、スタッフやキャストの労働時間の管理です。

1日の拘束時間をはっきりさせ、それを徹底すれば、睡眠時間を確保でき、スタッフやキャストは仕事にしっかり向き合う時間が取れるのです。そのために僕に何ができるのか? と考えた結果、作品を作る側に回ることではないか、と思うに至りました。

それでプロデュースの勉強をして、いろいろなプロデューサーからも教えてもらい、2019年には初めてプロデューサーとして参加した作品『デイアンドナイト』を世に送り出すことができました。

2020年は、竹中直人さん、齊藤工くんと3人で共同監督というかたちで、映画『ゾッキ』の監督に初挑戦します。僕としては、スタッフもキャストも、しっかり仕事をしてしっかり休める現場にしたい。もちろん、そうするためには予算が必要ですが、お金がないなら集めればいい。

撮影現場にはロケ地の市の協力も得て、託児所を作る予定です。それこそ、健一のようなシングルファザーにも優しい現場でありたい。不安なく仕事ができる環境を整えることで俳優を守り、質の高い作品を作ることにつなげられたらいいなあと思います。

俳優である僕が、俳優ではないポジションにつくからこそできることはあると信じてがんばりたいです。──と思う一方で、心が折れることも多く、もういやだな、やめようと思うことも。でも、そのたびにここでやめたら無責任だよな、と思い直す。こんなことを繰り返しています。