赤ちゃんの登場が刺激をもたらす
実験用の齧歯類の研究から、妊娠と出産によるホルモンの急増が脳に及ぼす影響は明確になりつつある。エストロゲンとプロゲステロンは互いに、またオキシトシンやプロラクチンと協調して働き(つまり単体ではなく)、母ラットの子ラットからのサインへの感受性を高め、アリソン・フレミングらが「最大限の反応状態」と呼ぶ状態を作り出す。
反応性は子ラットが生まれる前から高まり、妊娠前は避けていた子ラットに逆に惹きつけられるようになる。ホルモンが脳のスイッチをオンにし、子ラットが発する特別なサインに敏感にさせ、行動できるよう促すのだ。
赤ちゃんの登場が刺激をもたらす。哺乳類では母親は妊娠や分娩に必要なホルモンをすべて自力で分泌することができるが、典型的な母性行動の発達には赤ちゃんからの感覚的な入力が必要だ。初めて母親となるマウスは子マウスの匂いを嗅げなければいけない。嗅球を摘出されると巣を作らなくなり、授乳の可能性も低くなる。新たに母親になったヒツジも子ヒツジの匂いを嗅がなければ子育てがうまくいかない。
ところが子育ての経験があり、子の匂いを嗅いだことのあるマウスやヒツジは嗅覚を失っても生まれた子の世話を問題なくこなせる。つまり、経験が重要なのだ。実験用ラットの場合、触覚的な刺激も嗅覚以上に重要なようだ。母ラットは子ラットのそばにいて、子ラットを舐めたり口でくわえたり、鼻をこすりつけたりすることで世話や授乳への動機づけが高まるのだ。
※本稿は、『奇跡の母親脳』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『奇跡の母親脳』(著:チェルシー・コナボイ 訳:竹内薫/新潮社)
「親になると、脳が変わる?!」
ピュリッツアー賞受賞のジャーナリストによる、従来の「母性神話」では説明のつかない、人類の脳と育児の謎に迫る衝撃のレポートです。