どのような人でも、少なからずファッションに惹かれる面を持っているものです。その心理について、ファッション・ジャーナリストの久保雅裕さんは「トレンドや自己表現の手段としての服の力を借りて、自身に幸福感をもたらすツールであることを無意識に感じているのだろう」と語ります。そこで今回は、久保さんの著書『アパレルビジネス』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。
羊以外の動物の毛もウールとして扱われることがある
「ウール」という言葉は、一般的には羊の毛(羊毛)を指しますが、商業的、技術的には、羊以外の動物の毛もウールとして扱われることがあります。
例えば、アルパカというラクダ科の動物から取れる毛は、アルパカウールと呼ばれますし、光沢があり滑らかな肌触りでスーツなど高級衣料に使われるモヘヤは、アンゴラヤギから採れます。
ややこしいのですが、非常に柔らかく、ふわふわした繊維で、高い保温性を持ちながら軽量で、独特のぬくもり感がありセーター、カーディガンなど高級ニット製品に使われるアンゴラというウールもあります。これは、アンゴラウサギの毛なのです。
アフリカにアンゴラという国がありますが、全く関係はなく、このアンゴラヤギとアンゴラウサギは、モロッコのアンカラ地方の旧称がアンゴラで、この地方原産の山羊と中国原産でこの地方で飼育が盛んだったウサギがヨーロッパに渡ったことにより、それぞれアンゴラの名称が頭に付いたそうです。
この他、高級品の代名詞「カシミヤ」は、カシミヤ山羊から採れます。「ビキューナ」というカシミヤの上を行く高級獣毛もあります。これらの繊維は、羊毛とは異なる動物の毛ですが、ファッション業界やテキスタイル業界では、しばしば「ウール」という言葉の一部に含めて使用されることがありますが、厳密にいえば、羊の毛は「羊毛」、それ以外の動物の毛は「獣毛」と言います。
いずれも動物の毛から採られる繊維で、温かく、柔らかく、耐久性に優れた素材として古くから利用されており、様々な産地や種類があり、それぞれ特有の性質を持っています。
主要なウールの産地と代表的な種類を紹介しましょう。