知らぬが仏、逃れられない運命が静かに
今度は大昔にさかのぼってみましょう。
6600万年前に恐竜が絶滅したのは、隕石がきっかけの気候変動のせいではないかと考えられています。衝突の直後に、300mもの巨大津波が発生したともいわれます。
恐竜だけでなく、地球上の生物種の70%がこの頃に絶滅したといいますから、とてつもなく甚大な自然災害です。この時の隕石がつくったとみられる直径約200kmの巨大なクレーター(くぼみ)が、メキシコのユカタン半島に見つかっています。
恐竜たちは、そんな瞬間がやってくるなんて夢にも思わなかったでしょう。
でも、彼らの頭の上からは、逃れられない運命が静かに、時間をかけて迫っていたのです。
まさに「知らぬが仏」、かもしれませんね。
地球46億年の歴史でみても、天体がぶつかってくる「天体衝突」は珍しくありません。
そもそも地球は「微惑星」という小さな天体(超巨大隕石のようなもの)が何度もぶつかりながら誕生した天体です。現在でも、小さければお願いごとをする「流れ星」だし、「火球」とか小さな「隕石」なら、わりと見たり聞いたりする機会があります。
ちょっぴりおっかない話になってきましたが、目をそらしてはいけません。
思い出してください。
今、あなたが足をつけているその地面は、不動の大地などではなく、宇宙空間をただよう天体なのです。同じように宇宙をただよっている別の天体とニアミスするのは、ごく自然なことです。
大きいものは「いずれやがては」やってきます。
あなたは今、恐竜と同じように、知らぬが仏でいるかもしれないのです。
※1 『ムーミン谷の彗星』トーベ・ヤンソン著・絵 下村隆一訳 講談社青い鳥文庫
※2 『美保関隕石騒動顛末記』松江天文同好会事務局編
※3 https://www.kahaku.go.jp/research/db/science_engineering/inseki/inseki_list.html 国立科学博物館 日本の隕石リスト
※本稿は、『夜、寝る前に読みたい宇宙の話』(草思社)の一部を再編集したものです。
『夜、寝る前に読みたい宇宙の話』(著:野田祥代/草思社)
本書は、宇宙の生い立ちや星の一生、宇宙の構造といった科学的事実をやさしくひもときながら、人間の存在を宇宙のスケールで見つめ直す視点を提供する。
人間の存在は小さい。だが、その小ささにこそきっと意味がある。
宇宙を知ることは、私たち自身を知ること、その扉を開く一冊。