「僕が生かされているのは、そういう若い人たちに、戦争とはどういうものかを伝えるためなんだ、きっと。だから決して、カタルシスを感じるような戦争映画を作ってはいけない」

「私たちは戦前の人間です」

こうして無事に撮影と編集を終え、『花筐/HANAGATAMI』を世に問える運びとなりました。すると、不思議なことが起こり始めたのです。

この20年間、僕は自分の企画でしか映画を撮っていません。CMで得た収入の貯金と各地の皆さんからの浄財で、映画を作ってきたのです。いよいよ貯金も底をつき、恭子さんとは「全部使っちゃった。それでよかったわね」と言っていたのですが、ここにきて、「大林さんの映画を見たいから一緒に作りましょう」と、オファーがどんどんくるようになった。生き残っている戦争体験者に、証人として何かを表現してほしいという時代になった、ということでしょう。ですから僕は今や、役に立つ老人になりつつある。

そういえば最近、駅前で中学生や高校生の子たち15人くらいがビラを配っています。ビラには「私たちの未来は私たちが守ります」と書いてある。「おじいちゃんも一緒にがんばるからね」と言うと、ふっと一歩引いて、「おじちゃんは敗戦後の人ですね」と。「敗戦後70年ちょっと生きてきたんだよ」と答えると、「私たちは新しい戦前の人間です」という言葉が返ってきた。

「戦争が廊下の奥に立つてゐた」という皮膚感覚を持っている若者が、確実にいる。たった15人でもいるということは、やがてそういう若者が増えていくだろう。

僕が生かされているのは、そういう若い人たちに、戦争とはどういうものかを伝えるためなんだ、きっと。だから決して、カタルシスを感じるような戦争映画を作ってはいけない。僕がこの人の世に生かされていることの意味を問いつつ、まだまだ映画を作り続けねばと思います。


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